ライター:山田涼矢
2020年8月に「はたらく魔王さま!」が完結した。この作品は和ヶ原総司による電撃文庫のライトノベルである。シリーズ21巻で完結しており、2013年にアニメ化している。
キャッチコピーは「フリーター魔王さまが繰り広げる庶民派ファンタジー」。また、円盤売上も1万5000枚となっている。少ないと思われるかもしれないが、業界では一万枚を越えると売れた方だといわれている。つまり「はたらく魔王さま!」はかなりのヒット作といえる。日常系ライトノベルのアニメ化成功について、本作は全体を通して何がよかったのか。
[全体の構成とあらすじ]
2013年の4月に放映している。TVシリーズでは13話で物語は前半5話、後半6話、シリーズの間と最後に幕間のような一話完結の話が各1話ずつある。監督は「未来日記」や「十二大戦」などを手掛ける細田直人、制作会社は「Re:ゼロから始める異世界生活」や「慎重勇者」などを制作しているWHITE FOX、逢坂良太・小野友樹・日笠陽子・東山奈央らが演じている。
作品の舞台は日本だが、魔王サタンとその側近アルシエルはエンテイスラという別の世界から逃げてきた。彼らは力を失い、帰る手段を見つけるために日本で生活する。そこで再び勇者と出会い、物語が始まる。魔王はアルバイト、アルシエルは主夫業をしている。前後半共に各4話まではコメディが強いが、最後はエンテイスラからの刺客をやっつけるバトル要素もある。
この作品の見どころはメインが日常かつコメディとして笑いながら見られるところと個性の強いキャラクターである。魔王や勇者が日本でアルバイトというギャップなどを上手く生かしている。
[前半]
1話のAパートでは魔王とアルシエルが日本に逃げどのように戸籍や家を獲得するかが描かれている。視聴者が疑問に思わないような作りで、退屈にならないような演出や会話となっている。警察に補導されかつ丼を素直に食べていたり、片言日本語が通じた時に喜んだりしていて人間味あふれる悪魔達のギャップが面白い。
Bパートでは、数か月で日本に住み慣れた彼らの普段の生活ぶりが見られる。魔王貞夫のハンバーガー店での働き方や芦屋四郎の主夫業、彼らの貧乏生活っぷりが見られる。ここで魔王を慕う後輩の鈴木千穂が登場する。1話の中で日本に来た状況と、話が本格的に始まる数か月後の生活から彼らの適応の速さや暮らしぶりの変化がわかる。
2話以降はエミリアと鈴木千穂が本格的に登場し物語が進んでいく。魔王と勇者が再会したところを襲撃され、その犯人を最後に倒す展開だ。そこまでにエミリアが勇者になった理由や彼女の日本生活、魔王と千穂のデートなどの話が盛り込まれる。エミリアが魔王を観察する描写などはアニメオリジナルであるが、彼らの日常がよくわかる演出である。
多少シリアスな展開もあるが、その後には自然に笑える要素が入るため飽きることが少ない。また、話が遮られることで起こる伏線等はほぼ無いのでモヤモヤすることは無い。
作画も戦闘描写や笹塚の背景等が細かく書かれている。戦闘では、敵味方ともどもキャラクターは動き回り、気合の入りようが窺える。また、話の中で魔王たちの暮らしがわかる日常観が上手く描かれている。
[後半]
登場人物に漆原半蔵と鎌月鈴乃が加わり、話は新たな展開になる。鈴乃はエンテイスラの人間であり、それを隠して魔王のアパートの隣の部屋に住む。後半に出てくる二人もキャラが濃い。漆原は魔王達の部屋でヒキニート生活し部屋に来た勇者や千穂、鈴乃に馬鹿にされる。鈴乃は日本の知識量は多いが、時代がずれている。
後半ずっと芦屋は体調(主にお腹)を崩していて、毎話唸りから始まる部分には笑ってしまう。また、千穂が鈴乃の差し入れ等に対するリアクションも見どころである。また、魔王たちと鈴乃、エミリア、千穂がフリーマーケットの準備をしつつ仲良くする描写はアニメオリジナルの話であるが、その後の展開に重みが生まれる演出となっている。
後半になっても作画は変わらず安定している。前半と後半で大きく変わる部分も無く戦う部分もかっこよくできている。
全体を通して、キャッチコピーである「庶民派ファンタジー」を上手くアニメに落とし込んでいる。原作の話をふくらましつつもキャラクターや展開に齟齬が生じないように作られていたことやコメディ要素とシリアスな要素を絶妙に混ぜている原作を上手く表現できていたところがこの作品が多くの人から良い評価を得たのだろう。
残念な所として、少し説明不足な部分が数点あり、細かい部分が気になる人はきになるかもしれない。
最後に原作の物語は終了してしまったが、最近は10年前の人気作の続きが作られているので是非続編を製作してほしい所である。