第一回W@KU WORK mini イベントレポート(後編)

中山:ありがとうございました!ここでスライドの方は終りとなります。ここからは、事前にいただいていた質問に対して三木さんにお応え頂く、質疑応答のコーナーです。(注:質問ナンバーが飛んでいるのはオフレコの内容を含んだ質問があった関係です。ご容赦ください)

1.独立前後で仕事に対するモチベーションに変化はありますか?

三木:ないです。僕のnoteにも書いたのですが、会社をやめる理由の説明として、やめたいという気持ちのコップと外でもっといろいろやりたいという気持ちのコップを思い浮かべてください。両方がいっぱいになるとその人はやめることを決断するんですね。ただ僕の場合は、やめたいという気持ちのコップは空のままで、だけどもっといろいろとやりたいという気持ちのコップは溢れてしまっていたので、今回の決断をしました。というわけで仕事に対しての向き合い方は変わらないです。

2.マーベルのような巨大コンテンツ会社を作るためには、電撃文庫にこだわる必要はないのではないかと感じます。ライトノベルというプラットフォームからさらに大きなコンテンツ市場を形成するために、今後考えているブレークスルーがあればぜひ教えて下さい。

三木:ライトノベルを出す上で電撃文庫以上に適している場所はないと僕は思っています。だからこそ僕は電撃文庫とパートナーシップを組みます。逆にそうせず作家を引き連れてエージェントが他のレーベルに移籍、なんてことがあったとしたら、僕自身ファン目線に立った時、絶対にそのシリーズはもう買わなくなりますしね。

ブレイクスルーというところで言うと、IPを今後いろいろなプラットフォームに展開していく中に答えはあるかなと思っています。今まさしく仕込みをしている最中なので、近々新しい情報を発表できたらと思っております。

3.出版社から独立されて、新しい才能を発掘するために重視していること、手段についてお伺いしたいです。

三木:アンテナを高める、ということですね。出版社の強みはやはり新人賞という仕組みを持っていることです。漫画だったら、ジャンプやマガジンなど連載をしたい雑誌をめがけて新人さんは応募をされます。電撃小説大賞も同様です。エージェント会社はその仕組を持っていないことが弱みに当たるので、その弱みを払拭するために自分で地道に足を運ぶ必要があります。具体的には、各地のイベントに行っては新しい才能を探す、ネットで話題となっている作品には常に注意を払うなど。自分自身の波長と合うアンテナが高い人と知り合うというのもすごく大切です。

4.未来の編集者に望むことは「媒体を編集する」ことだと仰っていましたが、くわしくお話をお聞かせください。その内容を踏まえたうえで未来の小説家に望む姿とはどういうものでしょうか?

三木:出来あがった一つの作品をどのプラットフォームでどのように見せていくかということが、今後編集者の手腕として更に求められていきます。理想像をお伝えすると、特定のプラットフォームを持たないエージェントだからこそできる自由な選択のもとに、作品の価値を最大化していくことが「媒体を編集していく」ということの意味ですし、僕自身の理想です。間違ってほしくないのは、何でもかんでも好き勝手すればいいということではないんです。そういう人は業界から嫌われます。作品に関わる全ての人に納得いただけるような配慮は必須で、パートナーシップを意識したうえで作品の打ち出し方にベストを尽くすという意識が大事です。例としては、うまくハマる会社とハマらない会社というのはやはりあるもので、そこの知識は事前に知っておかなくてはいけないですね。

そういった点を踏まえての未来の小説家に望むことは単純で、ただ面白いものを作ってください、その一点だけです。出来上がった物語をどうやって盛り上げていくかについては、エージェントとして誠心誠意プロデュースさせていただきますので、コアとなる作品を磨き続けていただければと思います。

5.同様のエージェント会社が今後増えていくことが想定されますが、その場合の競合に対しての優位性はどのように確保されるのでしょうか?

三木:競合会社が増えていただくことは作家さんのためにもなると思うのでとても良いことなのではないかと思います。作家さんからすれば選択肢も増えますし、エージェントとしては作家さんに対して提供できる価値を増やしていかなくてはいかないので、業界としても盛り上がる方向性だと思います。

一方で思うのが、本当に増えるかなということですね。正直なことを話せば、エージェント業はかなり大変です。まず、言えるのが収益確保が難しいです。大手出版社の編集者が独立するというのならまだしも、そういった後ろ盾がない状況でゼロから立ち上げるというのは正直かなりハードルは高いのではないかなと思います。

6.貴社ストレートエッジでは今後、契約作家を公募する予定はありますか?

三木:今のところありません。

7.今後のビジネスはうまくいきそうでしょうか?

三木:いきそうですよ。

中山:おお!

三木:いや、うまくいきそうって言っておかないと契約作家さんたちを不安にさせてしまいますからね(笑)。いや、もちろん何が何でもうまく行かせますよ。

作家さんの創作活動が、創作以外の問題で阻害されるということはクリエイティブ業界で一番もったいないことだと思っています。先ほどの弊社のビジネスについての話に繋がるんですが、僕のビジネスの先行きが不安で作家先生の創作に身が入らない、という状況は絶対に阻止しなくてはいけないんです。ですので、絶対にビジネスは成功させます。

8.メディアミックスをする上で、協力する企業はどのように決められますか?

三木:企業ではなく、担当者で決めます。巷では「あの制作会社だから良いアニメ出来るよ」といった話題がよく流れていると思うのですが実際は違っていて、作品に関わるプロデューサーや制作進行の方々によって作品のクオリティが担保されているんです。クレジットではあまり目立たないかもしれませんが、そういった方々のおかげでアニメーションは成り立っていると僕は思っているので、制作スタジオの名前が第一というわけではなく、制作に関わるそういった方々でメディアミックスをするかどうかを決めます。

9.メディアミックス、とくにアニメ化の失敗は、原作小説の価値にも傷をつけるリスクがあると思いますが、この点について三木さんの意見をください。またそのリスクを回避するための対策として何かされていらっしゃいますか?

三木:リスクはあります。でもやります。何故かと言うと勝負をしなくては意味がないからです。作品が売れるために、出来ることは最大限に取り組むというのが編集者の責務だと思っています。

リスクの回避という点では、自著にも書かせていただいているのですが「空気を読むメディアミックス」が大事だと思います。トータルプロデュースをするという側面に経つと、最近ではファンの方が作り手側よりも情報に明るかったりもするので、ファンが望むものを常に想像しながらメディアミックスに取り組んでいきたいと思っています。

10.動画配信ビジネスの台頭によりコンテンツのあり方が変わりつつありますが、今後は日本と海外、どちらを主要市場と見据えた作品作りが重要になってくると思われますか?

三木:海外も重視しなくてはいけないです。ただ個人的な視点から話させていただくと、国内で売れないタイトルが海外で売れるはずがないと思っています。海外のファンは当然の事ながら、日本の作品を全部見ているわけではないので、やはり日本で評判となったタイトルから見るのだと思います。海外と一括りにすると曖昧ですが、台湾・韓国・中国の方たちはやはり日本で売れているかをすごく注目しています。なので、日本でヒットを出すこと、その一点をまずこだわることが重要かなと思います。

11.ご自身の新卒時と今を比べて読者の変化はありましたでしょうか?

三木:あまりないと思います。どちらかと言えば読者の声がインターネットを通じて伝わりやすくなったとは感じます。

12.高齢化問題は業界にとってどのような影響があるのでしょうか?

三木:高齢化というよりも、ネットの発達で子供が電車で本を読まなくなった、ソーシャルゲームなどにファンを取られてしまっていることに危機感を感じています。やはり幼年期の体験が、自分自身が将来やりたいことに直接繋がると思っていますので、今の子供達は編集者を目指さない、そもそも編集者という仕事が存在することを知らないのではないかなと不安です。そうならないようにしていきたいなと思います。

13.フリーミアムモデルが台頭する昨今、コンテンツ業界はどのようなビジネスをしていくべきでしょうか?

三木:フリーミアムをやらざるを得ないでしょうね。何故かと言うと、一社がやめたところで他社は継続してやり続けるからです。ですので、フリーミアムというビジネスモデルの中でいかに戦っていくかは非常に大切な話に今後なっていくと思います。

細かな話にはなりますが、コンテンツをフリーミアムモデルで展開していくうえで、どの分野で収益を取っていくかということは僕自身常日頃考えています。コンテンツ業界は今一番この課題を繊細に取り組んでいるのではないかなと思いますし、将来的には新たなビジネスモデルが出来上がると思います。

14.オリンピックに向けてどのような企画をしていくべきでしょうか?

三木:オリンピックに向けての企画なんてないよ(笑)!

中山:外国人が日本に押し寄せてくる、ということについてですかね。

三木:ああ、そういうことですか。伝統工芸とコラボする作品を今後予定しています。今マーチャンダイジングで日本の伝統工芸品と作品とのコラボがありますよね。扇子や日本刀など展開できたらいいなと思います。

15.アニメの制作本数と原作の枯渇についてどうお考えでしょうか?

三木:アニメの本数については少なくなってほしいなと思っています。クリエイターさんが疲弊しているのが目に見えてわかるので。ただ原作の枯渇という点については、まだ起きていないと思っています。たとえばWEB上にもまだまだ面白い作品は山ほどあるので、どちらかと言えば選ぶ側の腕の見せ所だと思います。

19.今後、マンガやラノベは衰退していかないのでしょうか?

三木:衰退していかないと思います。というのも何を持って漫画とし、ラノベとするかですね。今Twitterに上がってくる数コマの漫画は漫画なのか、Twitter小説はラノベなのか。ジャンルが衰退するしないは、正直どうだっていい話で、物語というエンターテイメントは衰退していかないという点が重要です。なので枠組みが今後どう変わっていくかについてはあまり注目していません。

20.理想の編集者について教えてください。作家との関係の中でもっとも大切にしていることはなんでしょうか?

三木:理想の編集者については明確にはわからないです。売れる本をつくる編集者が素晴らしいという点は間違いないので、そういう点ではハリー・ポッターの編集者はすごいです。さらに言えば聖書を編纂した人が世界で一番すごい、ということになるのでしょうかね。

作家との関係性で大切にしていることは、チームプレイです。もちろん作品がないと編集者はそもそも生きていけないので作品に対しての仕事の比率は違いますが、作家として、編集として、分業関係であるということを意識することが重要です。

22.ご自身が考える「面白さ」とはなんでしょうか?その面白さを読者に伝えるために大切にしていることはなんでしょうか?

三木:面白さは必ずどの物語にも存在している、ということです。作家さんは作品を作る際、必ず面白いと考えて創作されているので。編集者としては、その作品の面白さに気づいて、万人の人に伝わりやすくするためにどう演出するかが大事だと思っています。

23.編集者として、プロデューサーとして、そして社長として “人との繋がり” において一番大事にしていることはなんでしょうか?

三木:互いに一度承認をしたものをあとからひっくり返さない、ということですね。打ち合わせや作品を納品いただいた後に、あとになって「やっぱり変えたいんです」と言われることに対しては、相手に厳しい態度でのぞみます。それはつまり最終的にいつOKをいただけるのかがわからないということなので。プロなのだからお互い言葉に責任を持つべきだと、自分の担当作家には伝えています。

24.今後アニメ・出版業界をリードするために必要なことはなんでしょうか?意識面・技術面・知識面でそれぞれ何かあれば教えて下さい。

三木:これはもう面白いものを作る、以外のことはないですね。

25.編集とアニメプロデューサーの仕事とで共通していることはありますか?クリエイターになりたいと思ったことはありますか?

三木:空気を読むこと、あと作品に関わる関係者の中でピラミッドの最下層であることです。指示だけして何もしない、というのは現場で嫌われますので、そうならないように気をつけていますし、これから編集者を目指す皆さんも気をつけてください。

クリエイターになりたいと思ったことは僕自身あまりないですね。すごい人達に囲まれていたからかもしれませんが、自分自身で創作をしようと思ったことはないですね。

26.エンターテイメント業界で長く仕事を続けていく上で重要なことはなんでしょうか?逆にやってはいけないことはなんでしょうか?

三木:健康であることがとても大事です。僕自身の顔色を見て、みんな嘘だろって思うかもしれませんが、僕、健康診断でいままでずっとA判定ですから。健康でなければそもそも仕事なんてできませんので、気をつけてくださいね。

作家さんになりたい方々も区や市で健康診断を受けることが出来ますので、絶対に行ったほうがいいですよ。印税が入ったら一年に一回人間ドッグに行くぐらいの心構えでいていただいたほうが良いと思います。

27.「好きこそ物の上手なれ」を信じていますか?仕事のなかで、好きでやっていたことが嫌になることはありますか?

三木:嫌になるということはないですね。逆に基本的には好きすぎることは、あまり仕事にしないようにしています。仕事なのでどんな場面でも真面目にやるのですが、思い入れが強すぎるとフラットに接することが出来ない気がしていて。名前は伏せますが、過去自分が大好きだった作家さんから担当をして欲しいと依頼をいただいたことがあったんですが、好き過ぎて面白い作品に仕上げる自信がなかったのでお断りさせていただきました。

28.企画出しをする際に意識することはなんでしょうか?ヒットを出し続けるコツはありますか?

三木:ヒットさせるコツが分かったら苦労しないんですよね(笑)。企画出しについてはいろいろとありますが、一つ上げるとすると想定読者が誰で、その人はどうしたら喜んでくれるのかを真剣に考えます。そうしないと、アウトプット先が決まっていないのに企画を立てたとしても誰のための企画なの?となってしまいますので。

29.編集者ならではの苦労はありますか?締め切りに追われて、激務なイメージが有りますが実際はどのような働き方でしょうか?

三木:確かに時間的な意味で言えば縛りは全くないですね。そういう意味では昼頃の出社なので満員電車に乗る必要もないですし、楽なことが多いですね。服装としてもスーツを一切着る必要が無いので大分楽ですね。茶髪も問題ありませんし。

中山:労働時間が多いことが、よくやり玉に挙がるとは思いますがその点はいかがでしょうか。

三木:とはいえ映画を見ている時間ですら「仕事ですから」と言い張れますからね。外から見ているより大分楽だと思いますよ。

30.思い切った決断をする際、どのくらい先の将来まで見越して決断しましたか?自分の今の考え方を作った一冊は何ですか?

三木:決断をする際はできるだけ先を見据えたほうがいいと思うので、アニメ化の際は五年後くらいまでのプランを描きます。何故かと言うと、アニメ化の企画を立ち上げても作品が世に発表されるのってとても先なんです。アニメが放送されるタイミングで原作の小説がどこまで進んでいるかなどをを考えますね。

次に今の考えを作った一冊ですが……なんだろうなあ。

中山:ビジネス書は読まれるんですか?

三木:全く読まないです。ただ荒木飛呂彦さんの『荒木飛呂彦の漫画術』や、ゆでたまごさんの『火事場の仕事力』などの漫画家さんたちが何を考えながら作品を作っているのかが盛り込まれた書籍はすごく参考になります。

中山:作家の視点を学ぶために、ということでしょうか。

三木:自分自身のモチベーションを上げるためです。漫画家の方々の仕事へのこだわりを実感して自分ももっと頑張ろうと思う、そんな感じですね。

しいて一冊に絞るとするなら、カール・セーガンの『コンタクト』ですね。なんでこの一冊を上げるかというと、サイエンスをエンターテイメントにすることにこだわって書かれた物語だからです。大学では理系だったので、理系の小難しい内容をこんな風に面白い物語に昇華することが出来るんだと感動しました。こんなふうに伝えれば、もっと理系を志望する人が増えるんだろうなと思いましたね。

31.三木さんの生きる目的は何ですか?

三木:担当作が完結するまでは死ねないですね。

32.三木さんが考えるエンタメ業界における優秀な人材とは?

三木:一般常識を持ちつつもある程度頭がイカれている人がいいですね。

33.エンタメ業界で安定した職業に就くことは可能でしょうか?

三木:大手に入れば全然問題ないと思います。

34.就職先を決める際にエンタメ業界の企業のチェックすべき情報はありますか?社風・企業理念を重視すべきでしょうか?そこで働いている人たちを重視すべきでしょうか?

三木:自分がやりたいことと出来そうなことのカードを洗い出して、それが企業サイドが求めているものと合致するかを見極めることが重要ですね。僕個人としては社風や企業理念はあまり気にしないほうがいいなと思います。

35.好きなことを仕事にすることに踏ん切りがつかないのですが、三木さんはどのような気持ちで仕事をされていますか?

三木:好きなことばかりが仕事ではないですからね。ただ、この場にいられることは本当に恵まれていることだと思っています。自分が入ることで、必ず誰かが選考に落ちたはずなんです。僕のことを「お前より俺が担当編集したほうが絶対に面白く出来る」と思っている人もいるでしょう。そういう人たちに負けないようなものを作らなくてはいけない、という使命感はあります。

36.エンタメ業界で就職できたものの、想像と業務内容に乖離があり、転職を考えています。どういったタイミングで転職すべきでしょうか?

三木:これはわかりやすいですね。自分自身が転職先の人事担当の立場になって考えてみてください。やめるにあたり、今の職場でなにを学んできたのか、という事柄がはっきりと言語化できていることが重要です。基本日本の社会では会社をやめるということに対しての反応はネガティブです。だから「これを得たんです」と言い切れることと、そこに説得力をもたせられる期間働くことが必要ですね。

37.アニメ業界では、フリーランスの方が業界を担っている構造上、新卒採用や人材育成が難しい環境ではないかと思います。その中で、業界へ飛び込みたいと考える若者(特に新卒)はどのように経験を重ねていけばよいのでしょうか?一度一般的な会社に就職して中途でアニメ業界に入るという方法論もあるかと思いますが、こちらいかがでしょうか?

三木:人材育成を丁寧にしてくれない、ということについてはクリエイティブな業界としてある程度は仕方がないかなとも思います。ただ潜り込んで、アピールをするとチャンスを与えられるということもよくある業界です。一般的な会社に就職して、ということを考えるよりも入ってからいかにアピールをするかを考えることが重要じゃないかなと思います。

中山:中途採用という点についてはいかがでしょうか。

三木:確かに中途採用は意外と間口が広い感じはしますね。ただ最近は若手を採用する企業も増えてきたので、今学生であるのならそこまで意識する必要はないかなと思います。

39.高校生・大学生として編集者を目指していますが、何をすべきでしょうか?学生の頃これを「やっとけばよかった」思う事と「やっといてよかった」思う事を教えてください。

三木:やっとけばよかったことは英語です。今の仕事で英語を使う機会が多くなってきているのですが、ちゃんと勉強しておけばよかったなと思います。受験英語は出来るのですが会話となると通訳がいないと何も出来ない。

中山:海外とのやり取りが増えているんですね。

三木:海外と仕事をしていけば自然と規模が大きくなるので、やっています。ただ通訳を使うと気持ちが中々伝わらなかったり、伝わるニュアンスをコントロールできなかったりするので、難しさを感じます。

やっといてよかったことはサボったことです。学校の近くに雀荘があって、そこに入り浸っては麻雀をしていましたね。サボることで何が得られたかというと、自分自身がマイノリティであることに気付けました。作家さんも編集者もつきつめると孤独な存在だと思います。孤独であることを自覚しつつも拠り所となる「俺にはこれがある」という存在を仕事にすることで前にすすめる気がします。

40.これから編集者を目指す人に持っていてほしいこと、覚悟してほしいことはありますか?

三木:これからは編集者という肩書であっても、そこまで作品に深く携われなくなる可能性があります。ネット小説の台頭が見て取れますが、そのランキングを元に出版社が作家に声をかける、出来上がっている作品をオーサリングしましょう、作品の中身は変えないことが読者のためですから、という流れが仮にスタンダードになってしまったとしたら……編集者の仕事ってありませんよね。そういう状況を踏まえて、持っていてほしいことは「自分じゃなきゃ出来ない仕事はなにか」を考える気持ちですね。その気持がないと作家さんからも見透かされます。「編集者なんていらないじゃん」となると、作家さん自身がKindleで直接販売しよう、と言われてしまいますからね。

42.編集者として世に出す作品を選ぶ感性は必要でしょうか?それともマーケティングを重視すべきでしょうか?

三木:当然、ともに必要です。両方共大事です。

43.効率よく良い作品に触れる方法、効率よくそこから吸収する方法があれば教えて下さい。

三木:自分の感性とあった読書家の方と知り合うこと。その人が読んでいるものを自分でも読むと、効率よく本を読むことができるようになると思います。読書家を見つける方法は、読書メーターなどのサービスを利用していただくのもありだと思います。

そこからの吸収する方法は、家族や友人に読み終わったあと3分間でその人達にその本を読みたくさせるためのセールストークをしてみてください。そうすれば、読んだ本の中でどこが面白かったのか自然と整理されます。

44.オリジナルのアイディアを出すより、人のアイディアに対して提案や意見を言う方が得意です。これは編集者向きといえるのでしょうか?

三木:厳しい意見になってしまうのですが、提案や意見をいうだけでは編集者にはなれません。どう声をかけたら作家さんが動いてくれるか、創作意欲が湧くか、まで考えを巡らせないと編集者にはなれないです。

45.作家のマイナス部分に目が行き、プラスなアドバイスが出来ないのですが、どうすればよいでしょうか?

三木:編集者であるあなた自身が、その作品のことを本当に面白いと思えていないからじゃないかなと思います。先ほどと被りますが、読んだあと短時間で作品のプレゼンをする、それを作家さんにもしてみせる。きっと作家さんは喜んでくれると思いますよ。「ここがいいと思ってくれたんだ」と作家さんにとっても気付きとなるかもしれませんし。

46.三木さんが作品を見て、「これは面白い!売れる!」と思うのはどんな時ですか?

三木:自分が担当した作品は全部「面白い!売れる!」と思っています。「ここがこう」という感じはあまりないです。

48.「超絶最強におもしろい作品」と「かなりおもしろいが凡庸な作品」との差違は、どういった要素にあるとお考えでしょうか?

三木:違いはあるんですかね。両方共面白い作品ということでしょ?両方いい作品だと思いますよ。ただ差があるとするなら、面白いと思ってくれる読者の数の差ですよね。要素としてあげるなら、今市場で読者が気になっているトレンドで反響が変わっていくだけだと思います。僕個人としては両作に違いはないと思います。

49.電撃小説大賞二次選考で落選する作品と、通過する作品の違いはなんでしょうか?

三木:この人じゃないと書けないかどうか、ですね。あとは編集者がその作品を話題にするときに思い出しやすいキャッチーさ。

50.作家に対して何か求めるものはありますか?

三木:これは別の質問でも話しましたが、言葉に責任を持つということですね。あとは、俺が好きなものはこれだ、と思うものを愚直に書くこと。そして書き終わったあとに「俺、天才だな」と思えること。作品を読んだファンにもその気持ちは伝わりますので。

51.今まで担当してきた作家さんたち共通の特徴、美点などはありますか? 逆に、編集から注意したような悪い点はありましたか?

三木:ありがたいことに、チームプレイをしてくださる作家さんたちばかりで、めちゃくちゃ大変な作業をされているはずなのに周りへの感謝の気持ちを常にわすれないことには本当に頭が下がります。

こちらから注意したこととしては、たまに自分自身を安売りしてしまっていることがあるので、「いやいや、あなたはそのレベルの方では決してないですよ」とお伝えしますね。

52.最初のプロット提出から原稿が完成するまで、平均でどれくらいの時間がかかりますか?

三木:一般的には半年ですね。最短だと二週間。

53.締め切りを設ける時、どのような基準で締め切りを決めるのか教えてください。

三木:最初の打ち合わせで作家さんとどれくらいで上げるか相談します。例えば一ヶ月後にここまでと決めてみて、実際に一ヶ月後に上がってくるかで判断します。早く上げてくる方もいらっしゃいますし、間に合わない方もいらっしゃいます。そのスピードを基準に締め切りを設定します。

54.新作の話し合いの時、どのくらいの完成度を望んでいますか?

三木:まったく完成度は望んでいないです。むしろ打ち合わせをするにあたっては完成していないほうが良いです。作家さんから「そこはもう決めてしまっているんですよ」とお言葉をいただくことがあるんですが、編集者としてそこは一緒に決めさせて欲しいと思っているので、完成度は意識していないです。

55.地方在住作家にはどのようなハンデキャップがあるのでしょうか?

三木:僕自身としては、違いはないと思っていますが、作家さん自身が電話だとやり取りがしづらいと思うことはあるかもしれないですね。直接会って顔を見ながらコミュニケーションしたほうが伝わりやすいと思われるのであれば、不都合が出てしまうかもしれません。

57.長く作家で食べていくために、特に重要なことがあれば教えてください。

三木:先ほど被ってしまいますが、自分自身のことをすごいと思い続けることです。

59.ネット小説のここ数年の傾向が、現代社会に住んでいる人が、「ここではないどこか」へ向かう物語だと感じるのですが、そんなに現代社会は生きにくいのでしょうか?

一同笑

中山:最後の質問ということで、社会的な話をしていただこうかなと思い、選ばせていただきました。

三木:この質問に僕が「うん、生きにくいですね」と答えたらどうするんですか(笑)。真面目な話をすると、これって別に特別な話ではなくて学園ラブコメと同じだと思うんですよ。あんなに生徒会が権限を持っている学校なんて実際にはないでしょう。

一同笑

三木:ここではないどこかへ、という思いは誰しもが持っていると思いますし、舞台が異世界か学園かで違うだけ。考え方は一緒なんです。登校風景があり、授業があり、お昼休みがあって、放課後に部活をやって、生徒会が強くて、隣の学校が攻めてきて、とかお約束の事項があって読者はそれを読む前から全部わかっている。異世界転生モノも同じで、冒頭でトラックに主人公がひかれて異世界に放り出されたとしても誰も疑問に思わないでしょう。前提の舞台説明を省略することでいきなりエンターテイメントから始められる、これは強い武器ですよね。当然のことながら作家さんもその有用性に気づいて使っていますよ。だから、異世界ということが重要なのではなくて、そういうフレームが今現在は読者の支持を得ている、そういうトレンドなんだと思います。

以下会場からの追加質問

60.これから世界展開をしていくうえでローカライズがすごく重要な作業となると思います。日本語表現の特異性として一例を上げれば、一人称だけでも私や僕、我、女の子がボクを使えばボクっ子とか非常に複雑ですが、海外展開していくうえでどのように対応すればいいのでしょうか?

三木:出来るかどうかはわからない前提の話になりますが、本当に優秀な翻訳家さんのお力をお借りしてどうにか頑張る、という話になると思います。台湾角川から販売されている、台湾版『狼と香辛料』を例としてあげれば、ご存知の通り日本語版の作中でホロは花魁言葉を話すんですね。当然のことながら台湾には該当する言葉はないのですが、翻訳家さんが意図を汲んでくださり、台湾の歴史的にすこし前の言葉遣いをホロの口調に選んでくれました。そうしたら日本語版を知っている台湾のファンの方たちに、すごく物語の雰囲気にあっていたと喜んでいただけたんです。口調や表現の端々を現地の方たちに伝わるやり方でローカライズをすることが今後は求められるんですが、そこってもう翻訳家さんの頑張りでしかなくて。どうやったら翻訳家さんたちに頑張っていただけるかと考えた時には、やはりビジネスとして大きくしていくしかないですよね。

61.沢山の人達が面白いと感じる作品と、特定の人達がめちゃくちゃ面白いと思う作品、どちらのほうがよいのでしょうか?

三木:読者対象を絞るかどうかで言えば、絞れば絞るほどいいと思います。ただ方法論としては、題材を絞ったり、主人公の属性を絞ったりしてターゲットを明確にしつつも、そこで展開されるドラマはコアとなるターゲット以外の人も楽しめる、ということは十分にあるかなと。

62.ストレートエッジの契約作家になるための最短の方法があれば教えてください。電撃文庫でデビューすることを目指せばよいのでしょうか?

三木:ありがたい話なのですが、現状手一杯でして……。僕としては必ずしも電撃文庫でデビューしている必要はないです。もちろん電撃小説大賞に応募いただければ、盛り上がるのでありがたいですけれどね。

中山:以上で質問を終了とさせていただきます。三木様、本日は非常に長い間、講演のためお時間をいただきありがとうございました!

三木:こちらこそありがとうございました!

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