制作進行から始まるアニメ業界キャリア~現役スタッフ本音座談会~

※本記事は2022年度アニメライター育成講座(現:アニメ業界ライティング講座)の受講生が修了課題として取材・執筆したものです。

「アニメ業界で働く第一歩!」に制作進行という道があることをご存じでしょうか。筆者が2022年にSNS上で行った「アニメ会社の制作部で働く20〜30代への実態調査アンケート」(有効回答90名)では、半数以上が現在のメインの役職を「制作進行」と回答。さらに、今後のキャリアとしては、「プロデューサー」や「監督」という結果が大半となり、制作進行がまさにアニメ業界の入り口であることがわかりました。

そこで今回は、アンケート回答者から、現役の制作進行の方や、次のステップに進まれている方を募り、これから業界を目指す人へ生の声をお届けする座談会を企画しました。

取材・執筆:せんさとし
編集:ドキドーキ!編集部

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僕たちはアニメ業界に制作進行で入りました。

司会)業界歴9年目の大東さん、4年目の中田さん(仮名)、1年目の山﨑さんにお集まりいただきました。まずは簡単なご経歴、アニメ業界に入られた理由からお伺いしたいです。

大東氏)僕は2014年度に新卒でProduction I.Gに入社して9年目です。2021年くらいまで、設定制作や進行業務も行っていましたが、今は脚本専任になっています。

どんな仕事にも辛いことはあるから、「好きなことをやっているからやめないでおこう」と思える業種として、アニメ業界を選びました。

中田氏)僕もそうですね。新卒の時は、色々な業界とお付き合いができる金融業界を選びましたが、何かを作る仕事がしたいと、3年目でアニメの道へ来て、今の会社(以下、A社)に転職しました。今年で制作部は4年目で、制作デスクと設定制作、アニメーションプロデューサーも兼任しています。

山﨑氏)僕はアニメの専門学校を卒業して、老舗のスタジオ(以下、B社)に入りました。制作1年目の21歳です。2023年4月放送予定のテレビアニメで、制作進行デビューしました。子供の頃は「ソードアート・オンライン」などが好きで、頑張って深夜に起きて視聴していました。

(写真の左から、A社の中田さん、Production I.Gの大東大介さん、B社の山﨑遥希さん)

司会)皆さん「好き」を仕事にされたんですね。

大東氏)そうですね。僕は1999年のTVアニメ版「ゾイド」が一番好きで、観た時に僕が愛でる作品だなと思ったのですが、今はそのスタッフさんと奇妙な縁でお仕事をご一緒したりしています。好きなんですよねって言い続けると縁ができるのが、アニメ業界のいいところです。

中田氏)僕はこの業界に入ってからは、基本は一回もストレスを感じていないですね。スタッフとの関りも楽しい。

司会)参加スタッフとの思い出はありますか?

中田氏)以前やった作品だと、監督が初監督で自分も初のデスクと設定制作をしていて、進行時代に演出で組んだことがある方だったんです。これはなんとしてでもしっかりやり遂げて、最後にこの人を胴上げしようって気持ちでやってました。

山﨑氏)僕も一緒にやってよかったと思える人はたくさんいますね。だからいい絵があがってきた時は、その気持ちを伝えるようにしています。そうすると喜んでくれたりして、話していて楽しかったり、守ってくれる人も多いです。

制作進行からのキャリアステップ

司会)大東さんと中田さんはすでに制作進行から次のキャリアステップにいますが、山﨑さんは今後どのように作品に関わりたいなど、展望はあるのでしょうか?

山﨑氏)プロデューサー志望ではあるんですが、演出をやりたい気持ちもあります。B社ではステップアップに試験のようなものはなくて、上の判断で引き上げてもらう形になっています。

大東氏)Production I.Gも同じですね。3,4年目の優秀な制作進行が、クリエイターかプロデューサーから「頑張っているね」と評価を受けて、次のステップに進んでいる印象です。

山﨑氏)ただ、B社の現状として、20代後半から40歳の年齢層が少なく、全体的に凄く若いので、制作進行自体が足りていないんです。今やっている作品には制作デスクがふたりいますが、どちらも初デスクですね。

司会)今のアニメ業界にとって、制作進行を束ねる制作デスクは、最も人手不足な職種の一つだと聞きますが、それはなぜなのでしょうか?

大東氏)制作進行って個人プレイなところもあって、デスクはどちらかというと中間管理職なので、言い方は悪いですが、既に頑張っている人に対してさらに指示をしなきゃいけないことがある。そういう精神的な辛さにやられちゃう人が多いのかもしれないですね。

中田氏)優秀で仕事ができる制作進行でも、デスクに向いていないこともあります。そもそも制作進行から残る人が少ないのも現状です。求人を出すと無限に人は来ますが、どんなに仕事ができる方でも、向き不向きはある職業だと思います。

司会)双方からの板挟みになってしまったり、全体を見なければいけないポジションだからこそ、プロデューサーへの道が開けるんでしょうか。

大東氏)そうですね。弊社だと基本、プロデューサーはデスク経験がないとなれないです。今はやはり作品の方が多いので、企画が決まって「アニメ作らなきゃ!」と会社がなった時に、「デスクやらない?」とお声がかかっている印象があります。ただ、制作進行をちゃんとできないと本来はこなせない仕事なので、Production I.Gだと2年目以上の人がデスクをやることが大半です。

中田氏)極論を言えば、優秀な制作進行が一つの班に5人くらいいれば、本当はデスクはいらないかもしれません。制作進行が足りないので、デスクができるレベルなら、優秀な制作進行として重宝したいですよね。A社の場合も、仕事ができる制作進行はすぐにデスクにしちゃいますけど‥‥。

大東氏)消耗の多い役職だから、デスクをキャリアの終着点にしている人は珍しいですが、もしも部下がみんな優秀で、精神も体力もそこまで大変じゃない現場が続くなら、上に行かずに制作デスクを極める人も増えるかもしれないです。

アニメ業界に向いている人とは?働き方のコツ

司会)今のお話にもありましたが、やはりアニメの制作は「辛い」のでしょうか…。

山﨑氏)僕はアニメ業界を目指す人たちの専門に通っていて、現状を聞く機会も多かったので、かなり身構えていました。逆に入ってみると覚悟したほどではなかったです。

中田氏)そうなんですね。僕は採用面接もやっているのですが、山﨑さんとは逆で、アニメ業界にキラキラしたイメージを持ってくる方は多い印象です。理想と現実が明らかに違う場合はちゃんと教えて、それでもやる気があって向かってくる人かどうかを見ます。あと、A社は特殊で、制作は基本的に別業界から転職してきた中途の方を積極的に採用する方針です。

司会)普通は業界経験者が歓迎されそうなのに意外です。

中田氏)A社の社長はずっとアニメ業界の方だったんですが、何年もうまく制作デスクが育たないという現状のなか、別業界から転職して来た僕ともう一人が無事にデスクに成長しました。別業界の中途で、やっと上手く制作体制が組めたので、ジンクスみたいなものかもしれないです。あと、同業他社からの転職者だと、会社間でかなりやり方が違うので、そこに適応できなかったりすることも多いんです。

山﨑氏)確かに。僕は社外の制作進行さんとの関りってほとんどないですが、絵の回収で外回りに行った際に、他社の香盤表やカット袋を目にすると、全く違う形式のものを使っているなあと驚きます。

中田氏)中途採用にしている理由をもう一つ挙げると、新人教育をやっている際に、社会人経験がある人の方が、受け身じゃなくて能動的に自分から聞いてくれているなと感じています。それに甘んじてはいけないのですが、社会人の基本的マナーやホウレンソウを教える必要がないというのも、あるかもしれないです。

作品への愛。アニメ業界は義理と人情!?

司会)大変なこともあるなかで、皆さんの原動力はなんなのでしょうか?

山﨑氏)僕の場合、まだクレジットに名前が載った作品は公開されていないので、それが一番の楽しみで頑張っています。

司会)確かに!「クレジットに名前が載る」というのは、本当にすごい事ですよね。

中田氏)僕はプロデューサーとしてスタッフ選定をする際には、最低限の実力は必要ですが、なによりも「作品に愛を持ってやってくれる人」を大事にしています。そういう人にお金をいっぱい渡したい。いっぱい食わせてあげるスキームを作りたいですね。

大東氏)参加作品に対して、スタッフに愛があるかどうかって、わかったりしますよね。歴とかは関係なく、成果物から感じることがあって、作品愛が強い人は「すごい」と思わせてくれることが多いです。それは明らかにフィルムに現れるなあって、制作物を受け取る側である進行をやっていた身では思います。

司会)大変な仕事だからこそ、「作品愛」を持って頑張りたいですよね。

大東氏)「愛」は必ずしも作品に対してだけでなく、「この現場でこいつらと13話のアニメを完成させるぞ」とかでも、どんな価値観でもいいと思います。大切にしているものがある人の方が、作業がロジカルで回りやすい印象です。「この人はちゃんとやってくれる」という信頼が置かれて、いろんな人が集まって来るパターンもあります。何かしらのこだわりがある人であれば、自分も一緒にやりたいです。あと、この業界には、愛以外に、「義理と人情」もあったりしますね。

司会)「義理と人情」に関して、具体的なエピソードはありますか?

大東氏)僕は制作と脚本の二足の草鞋を履いていた時期がしばらくあったんですが、やはり「脚本も書く制作」と見られていました。先に話した通り、現場では制作進行の方が人手不足なので、「制作として手伝って」と言われることも多かったです。ですが、制作進行をやってしまうと、脚本家としての仕事をする時間が取れなくなってしまいます。

司会)現場の大変さは間近で見えているからこそ、板挟みですね。

大東氏)そうなんです…。そこでプロデューサーに相談したところ「じゃあ、これが君の制作としての最後にしよう」という作品を任されました。それを無事に完成に持っていったことで、以降は僕に制作進行の仕事を依頼しないよう配慮してくれるようになりました。おかげで今は脚本だけに専念しています。

司会)やり遂げるという義理を大東さんが果たしたからこそ、プロデューサーの方も、大東さんの脚本という立場を明確にしてくれたんですね。

大東氏)そういう風習には、良いところも悪いところもあるとは思うのですが、結果やりたかったことをやらせてもらえているので、あの時に頑張ってよかったなと感じています。

司会)逆に、頼られると断れなかったり、真面目な人がアニメ業界には多いですよね。だからこそ、ギリギリまで追い詰められて、辞めてしまう人もいるのでしょうか。

大東氏)そうかもしれないです。制作進行の業務ってどうしても一点集中になっていってしまう。一人でやることも多くて、「誰も助けてくれない…」みたいな思考になりがちです。でも、チャットとかでいろんな人に連絡すれば、意外と返してくれる。

司会)それがいわゆる人情なのでしょうか?

大東氏)人情ですね。アニメ業界は「あの時に返してくれたから、俺も返そう」というマインドの人も多いです。そういう人とうまく仲良くなって関係を大切にしたら、結果的には自分のためになるかもしれない。

中田氏)そういう時は、その人に何か頼まれたときに断れなくなるかも…(笑)

大東氏)「あの時お世話になったし、これは断れないなあ」ということ、ありますよね(笑)

司会)いつか今日のこのお三方が作品作りを助け合うことがあるかもしれないですね。

お三方)その際はどうぞよろしくお願いいたします(笑)

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