エンタメ業界で盛んな資本業務提携ってなに?【ビジネスで読むアニメ業界 #1】

昨今、エンタメ業界のニュースで「資本業務提携」という言葉を聞く機会が増えています。

アニメ業界でも頻繁に資本業務提携が結ばれています。

直近では東宝とバンダイナムコホールディングスの資本業務提携が話題を呼びました。

この2社は、いわばライバル関係にある会社です。

その2社が手を組み、オリジナル IPの企画開発や映像製作を行うと発表しました。

他にも、エンタメ企業大手のKADOKAWAは競合企業を相手に資本業務提携を結んでいます。

「資本業務提携」という単語をよく聞きますが、その内容をきちんと理解できているでしょうか?

本稿では「資本業務提携ってなに?」という疑問を解消するだけでなく、昨今の資本業務提携の流れについて解説します。

※本稿ではエンタメ業界で見られる資本業務提携の代表的なケースについて解説しています。資本業務提携の実態は多岐にわたるため、本稿の内容以外にも様々な考え方がある点に留意してください。

資本業務提携とは?

資本業務提携には、資本提携と業務提携という言葉が含まれています。

資本提携とは、相手の会社の株を取得・保有する形の協力関係を指します。

資本提携は、大きく以下の3つに分類することができます。※1

①一方が他方の株式を取得する場合(株式取得)

②相互に株式を保有する持合いの場合(相互保有)

③双方で同一の会社に出資する場合(合弁)

一方、業務提携とは相手企業の株を持たずに業務面で協力する関係を表します。

業務提携では、以下の目的で行われることが多いです。※2

ただし、エンタメ企業間の業務提携は、上記のいずれにも当てはまらないことがあります。例えば、「IP開発を共同で行います」という発表が行われると、具体的に何をしているか外部からは分かりません。

以上のように、「資本提携」と「業務提携」という2つの言葉が合わさった「資本業務提携」とは、相手の企業の株を取得・保有した上で業務面で協力する形態を指します。

資本業務提携は、いわゆるM&A(企業買収)とは異なります。相手企業の支配権を取得するM&Aとは違い、多くの場合、資本業務提携では相手の会社の株を過半数取得することは行いません。

ただし、資本業務提携を通じて少しずつ関係を深めていき、最終的にM&Aを行うというケースはあります。

資本業務提携のメリットとは?

資本業務提携では、シナジーの創出を目的としています。

具体的には、自社にはない資金や技術、製造施設やノウハウ、顧客基盤等を活用することにより、自らの企業としての価値を向上させることができます。また、こういった相手企業の資源を利用することで、自社で用意する場合と比べてコストを削減できます。※3

資本業務提携は企業買収(M&A)と比べて以下のようなメリットがあるため(※3)、上場企業だけでなく非上場企業でも広く行われています。

(1)費用の少なさ

他の企業を買収するとなると、多額の買収資金を用意する必要があります。また、新規事業として行うために他業種の企業を買収する場合、業態についての知見が少なくシナジーを見出せないこともあります。資本業務提携では、少額の出資のみを行うことで相手企業と関係を深めることができます。相手の事業内容や状況を理解することで、将来の企業買収を見据えた関係の深化を図ることができるのです。

(2)リスクの低さ

もしシナジー創出を目的として企業の買収を行う場合、事業に失敗すると多額の損害を被ることになります。上場企業であれば買収により、自社の決算に相手の企業が組み込まれることになります。一度繋げた資本関係を切り離すには多大な費用と労力がかかります。もし資本業務提携のように相手への出資が少額であれば、自社の決算に与える影響も小さくなります。

(3)相手方の抵抗感の低さ

買収される会社の立場に立てば、他の会社から自分の会社を買収されることで、心理的な抵抗感を覚える人が多いでしょう。また、今の大株主がこのまま支配権を維持しようとすることもあります。株主の構成によっては、相手の企業を買収することが非常に難しいケースもあります。そういった場合に、一部だけ資本を取得して業務提携を行うことにより、シナジーを少しでも生み出すことができます。

(4)異業種間の連携

会社の状況によっては、必ずしも買収が得策でない場合もあります。例えば、昔からある日本的な大企業と、最新テクノロジーを開発するベンチャー企業とでは、会社の文化が異なることがあります。そういった場合、少ない費用で双方の技術や資源を利用し、企業の価値を向上できる資本業務提携が望まれることがあります。

資本業務提携が解消される昨今

エンタメ業界では未だに広く行われている資本業務提携(株式の保有)ですが、その他の業界では株式持ち合いの解消が進められています。特に、以下のような理由により大口の法人投資家から厳しい指摘を受けています。※4

(1)議決権が十分に機能しないリスク

自社の株を持ってくれている相手企業は、現状の取引や関係性を重視します。そのため、現在の経営陣を支持し、株主総会で議決権を行使しないことが想定されます。もし取締役の選任や配当の還元方針に問題があったとしても、今行われている取引を優先するため、現状の経営陣を支持することが考えられます。

(2)株式持ち合いの理由や効果が不明瞭

株式の持ち合いを行っている企業は、その目的や、株式の保有によって生じる収益を十分に説明していないことが多いです。投資(株式持ち合い)の基準が曖昧であるため、「自社の株を別の会社に持ってもらうことで他の企業から買収されないようにしているのでは?」という批判があります。

このように、世間では着実に株式の持ち合いが解消される方向にあります。そうしたなか、資本業務提携が積極的に行われているエンタメ業界はその流れに逆行しているといえるでしょう。

資本業務提携が利益に与える影響とは?

では、資本業務提携を行うと自社の利益を伸ばすことができるのでしょうか?一橋大学 円谷昭一准教授の研究(※5)によれば、他の会社の株(いわゆる政策保有株式)を多く持つ企業はそうでない企業に比べて、利益率が低いことが分かっています。

ただし、この結果を正しく解釈するには日本の企業の歴史を理解する必要があります。

日本では昔から、財閥など多くの企業を一つのグループ(企業集団)として捉える傾向が強くありました。グループ内でお互いに株式を持ち合うことで、全く関係のない企業から自分の会社の株式を取得されることを防ごうとしました。

そうした企業では、利益が出ても従業員や金融機関への分配を重視することで組織の安定を図ろうとしました。

従業員への福利厚生を充実させることで、離職を防ぐことができます。また、金融機関と関係を深めることで、経営危機に陥った際に救済を受けることができます。そのため、どんどん利益を出して株主に分配することよりも、企業を長期的に存続させること(安定)を重視していると考えられます。

ただし、こうした状況は高度経済成長期を終えて変わりつつあります。近年においてどのように株式の持合いが利益に影響を与えているかについては、まさに研究が進められている途中です。

エンタメ業界では、小学館や集英社が所属する一ツ橋グループ、講談社やキングレコードが属する音羽グループは企業集団とみなすことができます。

しかし、昨今のエンタメ業界における資本業務提携には、企業集団としての結束を強める意識は小さいといえるでしょう。

近年はエンタメコンテンツが世にあふれ、作品ごとの影響力が弱まっています。自社とは違う強みを持った他社と協力してIPをつくることで、少しでも多くの顧客(ファン)を獲得しようとしています。

昔の株式持ち合いが他社から買収を防ぐ保守的なものであるとするならば、昨今の資本業務提携は企業間の垣根を超えた、挑戦的な協力関係であるといえるでしょう。

注釈

※1 戸嶋・熊谷ほか 2020; p.5
※2 淵邊 2018; p.8
※3 戸嶋・熊谷ほか 2020; p.2
※4 芳賀沼 2021
※5 円谷 2020

参考文献

戸嶋浩二, 熊谷真和ほか. 資本業務提携ハンドブック, 商事法務, 2020.2. 978-4-7857-2755-0. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I030231170
淵邊善彦 編著. シチュエーション別提携契約の実務. 第3版, 商事法務, 2018.3. 978-4-7857-2603-4. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I028862690
芳賀沼千里. 注目される政策保有株式の削減, 三菱 UFJ 信託資産運用情報 2021年3月号, 2021.3
https://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/u202103_1.pdf
円谷昭一 著. 政策保有株式の実証分析 : 失われる株式持合いの経済的効果, 日経BP日本経済新聞出版本部, 2020.6. 978-4-532-13505-8. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I030448944

筆者

はらぐち かずや

大学院でアニメビジネスの研究を行う。著書に『アニメビジネスで儲かる会社』『エンタメ企業の決算が読めるようになる本』(同人誌)。

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