――そういったクリエイティブな仕事を支える制作進行という職種を今年募集されるにあたり、業務内容と必要とされる素養についてご説明いただけますか。
舛本:
制作進行というのは、アニメ業界の入り口の仕事なんです。
営業という仕事を考えた時、新卒で入った当初はわからないなりに業務をこなしながら営業という仕事のノウハウを貯め、次にチームのリーダーになってマネジメントについても学ぶ。部長になれば、より多くのメンバーをまとめ上げ、会社全体の売上も視野に入れた上でプロジェクトのことを考えて……とキャリアがステップアップしていくと思います。
制作進行も同じで、アニメ業界における最初のステップなんです。ただ通常の会社と違う点としては、ステップアップの過酷さがあげられるかもしれません。
そういう業界において、小さい視点で見るか大きい視点で見るかによって人材募集の概念が変わります。本当に制作進行という最初の一歩だけを考えるのなら、頭がよくて体力のある、コミュニケーション能力のある、という要項を満たしているだけで良い。
ただ、そこからステップアップしていくときのハードルは大分高いのが現状です。
ひとりの制作進行がアニメの仕事をするにあたり少なくても100人、通常なら200人くらいとコミュニケーションを取る必要があります。自分が管理すべき予算も300万円から500万円くらい。それが制作デスクという次のポジションになると、管理すべき人もお金もいっきに増えて、人としては500人から600人くらい、予算としても最大で1億円から2億円くらいのプロジェクトを管理することになるわけです。
プロデューサーになると、全体予算とメインスタッフを含む全てのスタッフ管理も業務内容に入ってきます。そうなると、それぞれの仕事はそこまで大きく変わらないものの、責任感と処理能力、そしてセンスが問われます。センスというのは、例えばですが、監督が実現したいことをちゃんと自分で受け取った上で、全体に伝えられるか、といった能力ですね。また、自分が関わる先品がいつだって自分が作りたい作品、ということはないので、モチベーションのコントロールを自身で行えるかかも、非常に重要なポイントですね。
――プロデューサーまでキャリアパスを考えると、必要となる素養はかなり多そうですね。
舛本:
だからこそプロデューサーという仕事に意欲的である人に応募いただきたいと思っています。制作進行という仕事を極め、そのステージでプロフェッションになるという道もあるのですが、弊社としては、将来プロデューサーや監督につながる仕事の一歩目としての制作進行、という視点を持っている方と、ぜひ仕事をしたいんです。
とは言っても、すごく難しいことをお願いしたいわけではなくて、業界内で自分が本気でやりたいこと、成し遂げたいことを持っていさえすればいいと思っています。その気持ちがあれば、体力だったり、地頭の良さだったり、コミュニケーション能力というの要素はあくまで基本的なもので十分で。
ただ、3年間は腰を据えてやる、という覚悟は持っておいてもらいたいなと思っています。それはある程度の期間やらないと、本当の意味でこの業界でやっていけるかわからないと思うからです。
業界に入る前、監督やプロデューサーが実際に何をやっているかを知らない、というのは当然のことなんです。なぜなら今まで本人に会ったことがないから。業界に入り、近い場所で働くことになり、先輩たちの背中を見て、「本当にやっていけるのか」「そもそも自分にセンスがあるんだろうか」という自問自答の末、やっと業界内で自分が向かうべき道もわかるのではないかな、と。3年間を振り返ってみて、自分の適性を考えた時、プロデューサーになりたいけれどもそれは難しそうだ、というのであれば、自分の適性にあった仕事を見つければいい。それがもしかしたら、監督や演出、ということは全然あると思うんです。
――実際に制作進行から演出になられた方もいらっしゃいますか。
舛本:
もちろんいます。社内に演出部があり、そのうち2人はもともと制作進行でした。制作進行からシナリオライターになったスタッフもいますので、そこは本人次第だと思いますよ。
――クリエイティブ職と非クリエイティブ職の垣根がはっきりとある感じではないんですね。
舛本:
そうですね。
マネージメント職は職務的にも、実はクリエイティブの部分を担っている仕事ともいえるんです。管理職として職務をまっとうするためには絵コンテが読めないといけない。なぜかというと絵コンテはいわばアニメの設計図なので、カットごとにどれくらいの工数がかかるか、誰にお願いしたほうがいい内容なのかを理解しなくてはいけない。これってすごくクリエイティブな仕事だと思いませんか。
そうして絵コンテから逆算してスケジュールをひいて、進行していく。とはいえスケジュール通り進むことはないので、都度クリエイティブな方たちに寄り添いつつ、いかにスケジュールを守るかという、これまた非常にクリエイティブな技能がためされるわけです(笑)