若手が知るべきアニメ制作現場の現状とプロとしてのマインド【IMART2023】

2023年11月24日から26日にかけて、「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(以下、IMART2023)」がオンラインにて開催された。本記事ではカンファレンスの最後を締めくくるセッションとなった『アニメの作り手が語る「アニメ制作の危機」の本当のところ』の内容をレポートする。

本セッションでは日本のアニメの制作現場に関する実情が詳細に取り上げられたが、特に業界を目指す若い人にとって有益だと思われる話が多かった。そのため当記事ではアニメーターや制作進行志望の方向けに内容を抜粋して紹介する。

執筆:山田 涼矢

編集:ドキドーキ!編集部

1.アニメ業界の現状を知る3人の登壇者

 本セッションでは『呪術廻戦』(第1期)の総作画監督や『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』のキャラクターデザイン等を務めた西位輝実(にしい・てるみ)さん、東映アニメーションで38年間勤務し現在はフリーで演出を行っている佐々木憲世(ささき・のりよ)さん、現在東映アニメーションやサンライズ等で動画検査を担当しつつ、デジタルハリウッド大学専任教授として作画の指導もしている福井智子(ふくい・ともこ)さんが登壇された。お三方とも20年以上アニメ制作に携わっているベテランである。
 また、本セッションのモデレーターを務めたのは、アニメライター・構成作家のいしじまえいわさんだ。

佐々木憲世さん(右上)、西位輝実さん(右下)、福井智子さん(左下)、いしじまえいわさん(左上)

アニメ制作現場の現状とは?

 まず西位さんは、昨今制作スタジオでの経験が無いままにアニメ制作業界へ入る若手アニメーターが増えており、現場のベテランアニメーターが新人の絵の修正に時間を取られてしまう、その結果現場は疲弊し、作品のクオリティにも悪影響を与えているという問題点を取り上げた。
 西位さんの感覚に拠れば、今のアニメ制作現場には20代後半〜30代前半の中間層が抜けている上に、その中にもアニメ制作のワークフロー(工程)を理解していないアニメーターがいるのだという。西位さんはこの現状について、制作本数の増加とスケジュールの逼迫に加え、アマチュアアニメ制作の感覚のままプロのアニメ制作現場に入ってしまう人が増え、その結果修正が増加していると分析した。

 次に佐々木さんは演出家の立場から見た制作現場の現状について、ここ10年程で作品の制作本数が増加していること、更に各作品のクオリティを上げるため、制作に関わる時間や手間などのコストが増大していること等を指摘した。各クールの作品を並行して制作せざるを得ないスケジュールの中で、どの工程でも人が足りていないと感じているという。
 また、制作現場が過度なクオリティを要求される背景の一つとして、制作会社側が「弊社にはこのようなキャラクターデザイナーや監督がいます」とアピールするものの、その監督やデザイナーの良さを表現できるアニメーター達のスケジュールは確保しないまま制作を請けてしまうといったことが数年前から続いているそうだ。
 加えて、動画や仕上げを海外へ外注するようになったため、アニメ制作の基本的な約束事を知らないまま原画からキャリアを始める人が増えてしまった事を指摘した。独学でアニメ制作をする人が増え、自主制作のやり方のままプロの現場に来ている印象がある。この指摘は西位さんと共通している。

 福井さんは、基本的に西位さんや佐々木さんと同じ意見だとしつつも、教育者の立場から見た現状の問題について、次のように説明した。
 アニメーションは平面上の表現ではあるものの、キャラクター等の対象を立体として捉え、重心の移動や重力、慣性の法則、流体力学等の物理学を考慮して表現をする必要がある。だが、アニメーター向けの専門書の多くがイラストで技術を教える形式を採っており、アニメーションのロジックを文章で論理的に学べるような書籍が無い。今後新人がアニメーション理論を学べる環境作りが不可欠であり、それがなければ今後優秀な作り手はどんどん減っていくだろう、と警鐘を鳴らした。

なぜ「リモートでアニメーターデビュー」が危険なのか

 セッション後半ではアニメ業界の状況が改善されるための意見交換が行われたが、その中で、リモートワークで業界入りすることの危うさに関する言及が目を引いた。
 制作スタジオで作業をすれば、自然と先輩アニメーターの絵や仕事ぶりが見られる。そこからアニメーションの技術や前後の工程、それに関わる作法等も自然に覚えられる。しかしリモートワークではそのようなインプットを得ることができない。また、自分の仕事に対するフィードバックも受けづらくなってしまい、同じ間違いを繰り返しやすくなってしまう。そういった事情から、アニメーターとしてアニメ業界に入る際はリモートワークではなくなるべくどこかのスタジオに所属した方がいいのだという。
 また、現在のアニメ制作においては新人に指導をする余裕がないため、リテイクを出さずフィードバックもしないまま修正を行ってしまう。これはリモートワークに限ったことではないが、この点でも新人が先輩から指導を受けられる機会が失われているのだそうだ。

アニメにおけるアマチュアとプロとの違い

 また、アマチュアや個人制作とプロとの違いについて触れる場面もあった。
 個人の才覚で表現をするのが個人アニメーターであるとするならば、プロの商業アニメーターは監督の考えに合わせて求められるアニメを集団で作る職人であり、作品の中で自分の個性を目立たせることは目的ではない。ただし、どれだけ自分を抑えても個性というのは出てしまう。それを見つけて評価してくれるのがアニメファンなのだから、自分から個性を出そうとする必要はないのだという。
 アマチュアのマインドで業界入りしたアニメーターがリテイクを受けた際に、個性を否定されているように感じるかもしれない。だがそれは作品をよりよくするためのフィードバックであり、個人に対する否定や批判ではけっしてない。リテイクを受ける側は落ち込むのではなく成長の機会なのだと捉えれば、特に気に病むことはないはずである。と説明した。

アニメーターの業界団体について

 セッション終盤では、2023年に発足したアニメ業界の団体「NAFCA(日本アニメフィルム文化連盟)」について触れられた。この団体が発信する情報には、プロアニメーターによるアニメ制作の基本情報も用意されている。また、福井さんが今後不可欠としていたプロの技術を文字で論理的に説明する教本等も、現在NAFCAにて作成中だそうだ。西位さんは「アニメーターとして業界に入ることを真剣に検討している人はここに登録してアニメについて広く学んで欲しい」と述べた。

取材を追えて

 報道ではアニメ業界の問題が度々取り上げられているが、私は「制作数が多すぎることが問題の根本なのではないか」と考えたことがあった。今回のセッションでそれが割と的を射ていたのだと分かった。
 登壇者の方々は現場で起きていることについて高い熱量で話されていた。自分も何か手伝えるようにしたいと思わされるセッションだった。

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