アニメの現場に、ツールとしてのAIを。「アニメ業界はいかにしてAIに向き合うのか」セッションレポート【IMART2023】

11月24〜26日、「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima(以下、IMART2023)」が全日程オンラインにて開催された。本記事では、2日目14:00からのセッション「アニメ業界はいかにしてAIに向き合うのか」の内容をレポートする。

執筆:霧友 正規
編集:ドキドーキ!編集部

映像制作とテクノロジー、二人の専門家が見る「AI」のいま

 2022年末から大きな存在感を見せているAIが、クリエイティブ領域、特にアニメの現場でどう受け止められているか、今後はどうなっていくと考えられるか、映像制作およびテクノロジーの両面から語ろうというセッション。それぞれの面の専門家として、面白法人カヤック メタバース事業部 事業部長 / カヤックアキバスタジオCXO・天野清之氏、NVIDIA エンタープライズマーケティング シニアマネージャー・田中秀明氏が登壇した。

 まず、モデレータを務めるIMART2023ディレクター・中山英樹氏が、アニメ制作におけるAIの活用事例を紹介。2021年3月に、東映アニメーションがPreferred Networks の背景美術制作支援ツール「Scenify」を活用して、佐世保市を舞台にした実験映像「URVAN」を制作した 。

IMART2023ディレクター・中山英樹氏

 同年5月には、やはり東映アニメーションが着彩にAIを活用した事例を発表している。直近の事例として挙げられたのは、 rinna と WIT STUDIO、そして Netflix アニメ・クリエイターズ・ベースの共同で制作された3分間のアニメ「犬と少年」 だ。これらの事例を踏まえ、中山氏は「『こういうことができる』という事例は出てきているが、現場に降りてきているという状況ではない」とコメントした。

 続いて事例の紹介を求められた天野氏が、自社の制作実績を紹介。「AIが入っているわけではない」と断りを入れつつ、CG やモーショングラフィックなどを用いた、カヤックアキバスタジオ制作実績を紹介。こうした「テック系」のアニメへの活用は、2017年頃から注目があり、ゲームエンジンである Unreal Engine がアニメの現場に導入されたという。天野氏は「様々な技術を入れることがウリになる」と述べた上で、当時の取り組みは「クオリティよりも技術的挑戦という面が強かった」と振り返り、その強化を考えて、アニメ業界に積極的に関わるようになったと説明した。

面白法人カヤック メタバース事業部 事業部長 / カヤックアキバスタジオCXO・天野清之氏

 さらに、オレンジが制作する『アイドリッシュセブン』でバーチャル撮影システムが導入された事例が紹介された。2018年頃から作り始めたライブカメラの技術が、アニメのサポートツールになるのではと考えたという。この技術では、モーションキャプチャしたキャラクターを、カメラの位置を決めれば、どこからでも撮ることができる。監督がカメラを持って撮影するようなもので、「監督がイメージするものをそのまま撮れる」のが強みだ。天野氏は、「伝達をすると、情報の誤差が出てくる。それが良い方向に働くケースもあるが、『アイドリッシュセブン』のように監督に具体的なイメージがある場合は、こうした手法が有用」とコメントした。『アイドリッシュセブン』では、当初は1、2曲に導入される見込みだったが、制作現場がこの技術を気に入り、全曲での導入に至ったという。

バーチャル撮影システム「ジャンヌダルク」(参考) https://www.kayac.com/news/2023/06/idolish7

 また、AI NPC を取り入れた謎解きゲームの事例も紹介。「前世の自分と会話しながら、犯人が誰かを見付けていく」という筋立てで、「脱出ゲームでは、その場のデータだけでクリアするが、このゲームでは敢えて欠損データを仕込ませている。そのデータを、AIとの会話によって得ることができるゲーム」であると解説された。

統一的なフォーマットで、上流から下流までの3Dワークフローを変革

 AIの進化を、早めに取り入れようとしていると述べる天野氏。その天野氏から話のバトンを受け取った田中氏は、司会の中山氏いわく「(AIの進化の)渦中にいるというか、一番近いところにいる」人物だ。田中氏は、「スピードが速くて、3ヶ月経つと、もうその話はしないという時代」と前置いた上で、OpenUSDと生成AIによる3Dワークフローの変革について解説した。

NVIDIA エンタープライズマーケティング シニアマネージャー・田中秀明氏

 NVIDIAの「Omniverse」は、いろいろな3Dコンテンツをビジュアル化して見られるようにするものだ。そして、NVIDIAが推進する「OpenUSD」は、3Dコンテンツのためのデータフォーマット。以前にNVIDIAでは、「VRで、複数人が会話をしながら作業をする」というようなプロジェクトを行っていたが、データフォーマットの都合上、VRでの作業結果を記録し、それを踏まえて改めて対象のデータを編集する必要があったという。こうした課題を解決するために、Omniverseの開発にあたって、ピクサーが作ったフォーマットである「USD」を採用した。フォーマットに方言が生まれることで統一性が崩れてしまわないよう、USDを基にした統一的なデータフォーマットであるOpenUSDを今夏に発表したという。

 OpenUSDを使うことで、異なる種類のデータ、例えば3Dの車も、背景も、同じ形式のデータで表現できるようになった。Omniverse はUSDの基盤アプリとして、メディアやエンタテインメントにおけるプレビズで有用だという。多種多様なツールとデータを接続し、単一のビューで確認できるため、様々なツールを使う人々が、協力してワークフローを動かしやすくなる。「コンセプトとしては、上流から最後のところまで、全部繋げるようにというもの」と田中氏は語る。

Omniverse を用いることで、多種多様なツールを連携させ、一貫したワークフローを作ることができる

 Omniverseは発表されてから5年になり、レンダリング技術についてはかなり完成されてきたという。メジャーアップデートは年間に2、3回。「一番最近のところは生成AIですね」と田中氏。例えば、Audio2Faceなどの技術が扱えるようになっている。NVIDIA Kairosは、「未来のラーメン屋」という設定のゲームキャラクターとの自然言語インタラクションが行えるというもので、NVIDIA ACE for Gamesのデモにあたる。田中氏によれば、「LLM(大規模言語モデル)にゲームのバックグラウンドを学習させないといけない」とのことだ 。

 NVIDIAのGPU製品が紹介されると、天野氏が「(売り切れていて)買えない」と嘆き、田中氏が「売ってますよ」と応じる一幕も。こうした同社のGPU製品の性能を100%出し切るのがOmniverseでもある、という。

映像産業とAIの「二人三脚」に必要な人材とは

 「あらゆる技術にAIが入っている。AIを使うか使わないか、に議論の余地はない」と田中氏。技術側として品質向上が求められており、開発速度の向上も求められているという。データフォーマットを統一するのも、開発のイテレーションを回しやすくするためだ。

 「知らないうちにメチャクチャ AI が使われている未来が来ているのだろう。『AI とは何ぞや』というものを聞く前に、AIによって生成されたものに囲まれている」と述べた中山氏は、「映像産業とAI が、今後二人三脚を取れるようになっていくのか、まだ明確な指針が見えていないように思う。どういうことをしていけばよいか?」と問い掛けた。これに対して、天野氏は「アートと作家性、クリエイティブなど混ぜて話すと分からなくなってしまう」と前置いた上で、「アートは唯一無二。それは置いておいた上で、産業に持っていった上での、生産性、品質、プロフェッショナル、オペレーティングなどにどうAIを使うかが重要」と主張した。現場レベルではトライアルが始まっており、「作家性のような、答えが内にあるものは、それを出させるためのサポート」に使われるというのが、使い手側としての理解だと述べた。

 

 中山氏から「AIの進歩が非常に早いが、AIはどこまでいけるのか?」と問われた田中氏は、「LLMは3、4年前からで、 Generative AIというのが今年から。NVIDIAも、今年から『生成AI』という用語を使うようになった」と説明した上で、重要なのはそれを開発できる人の数だと答えた。「LLM もカスタマイズ、ファインチューニングできれば使えるのだけれど、それができる人の数というのが限られている」という。AIの進化の天井はどこかにあるだろうが、今は、開発ができる人の数が制約になっているとのことだ。これを受け、天野氏は、「日本人のクリエーターも、プログラマーも少ない。そこを増やしていきたい。そこを増やすために頑張りたい」と意気込みを示した。

 アニメ産業へのAIの応用について問われ、 田中氏は「いろいろな新しい技術が、次々に出てくるのは確実視されている。ツールですから、そこはうまく使いこなしていただければ。こう使え、というのは言えないので、気付いたら使っている、というのが理想」と述べた。さらに、「NVIDIAの本社は、ハリウッドなどについては、結構話をしているらしい。グローバル展開として、『日本で、海外に発信するようなサンプルとか、ユーザさんとか、著名なクリエーターさんとかいないのか』とはよく尋ねられている」と、非常に興味深い発言も。中山氏が「それが、このセッションの非常に大きなトピックですね」とまとめて、セッションは終了となった。

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