新海作品に学ぶ、長編アニメーション映画の海外展開【TIFFCOM 2023レポート】

2023年10月25日〜27日にTIFFCOM 2023(東京国際映画祭併設コンテンツマーケット)が開催された。本記事では、会期中に開催されたセミナー「『すずめの⼾締まり』における海外展開 : 製作会社と配給会社の関係性と可能性について」に注目し、新海作品が海外配給されるまでの舞台裏を紹介する。

執筆:はらぐち かずや
編集:ドキドーキ!編集部

当セミナーには、20年前から新海作品の海外セールスを担当する角南一城氏(株式会社コミックス・ウェーブ・フィルム 常務取締役)、東宝の国際部で『すずめの⼾締まり』や『僕のヒーローアカデミア』『呪術廻戦』の海外戦略を担当してきた竹田晃洋氏(東宝株式会社 社長室)、モデレーターとして数⼟直志氏(ジャーナリスト)が登壇した。

『君の名は。』の海外ヒットから『すずめの戸締まり』のさらなる飛躍へ

角南氏は、新海作品が東宝で扱われるようになった背景を以下のように説明する。

「『言の葉の庭』から国内配給を東宝さんに行っていただいた縁があったので、『君の名は。』から国内・海外の展開も東宝さんにやっていただく運びとなった。コミックス・ウェーブ・フィルムは自社でDVDを出していたので、『君の名は。』以前に新海作品を海外に展開するときは、海外のパートナーを見つけて現地でDVDを出していた。そのため、映画の興行というところに主軸は置いていなかった。」

また東宝で新海作品の海外展開を手掛けた竹田氏は当時を振り返り、ヒット作を扱うプレッシャーを感じたという。

「『君の名は。』の時に、元々設定された売上予算からは、全く桁の違う成績が日本国内で最初に出た。それをベースに海外での展開を行った。普通、中国で上映できるようになるまでには時間がかかるが、同作はかなり早く公開できた。あくまで予想だが、日本国内で大きく作品がヒットしていることが影響したのだと思う。日本国内の追い風があった上での海外展開だったので、作品を世界に広げることができた。」

「日本国内の興行収入でいえば、社会現象になった『君の名は。』の次の作品は非常に難しい。海外展開においても、前作より地域を広げていかなければならない。ホップ→ステップ→ジャンプ(『君の名は。』→『天気の子』→『すずめの戸締まり』)のような形を念頭に置いて、中長期的な展開戦略を実行した。『すずめの戸締まり』は動員数で見ると、日本国内の3倍以上の方に海外で見ていただいた。過去の2作と比較しても動員数が大きく、新海監督の認知やファンの母体自体が大きくなっているのを感じた。」

また、『すずめの戸締まり』はベルリン国際映画祭から海外展開をスタートしているが、ここにも角南氏の戦略があったのだという。

竹田氏は「映画祭は宣伝戦略上大事なポイントである。どの映画祭で1番最初に上映をするか、その後にどのような形で劇場公開まで繋げていくのかという点は綿密に設計をした」と語る。

日本のアニメが初めてインドで劇場公開!竹田氏が語る『天気の子』成功の舞台裏

竹田氏によれば、『天気の子』はインドで一般公開された日本で初めてのオリジナルアニメーション長編映画だという。

また竹田氏は、同作がインドで公開されるに至った経緯について、以下のように説明する。

「パンチョーリ君という、インドのアニメーションが大好きな男の子がオンライン上で署名活動を行い、第1回の製作委員会までに5万人の署名が集まった。私はいつも、海外でどのように展開していくか(どのタイミングでどこの映画祭を入れるかなど)、ロードマップを書いて委員会に皆さんに説明する。第1回の委員会の直前に署名が集まったので、委員会全体が「絶対にインドで公開する」というムードになった。インドには、製作や興行を行うPVRという会社(TOHOシネマズのような会社)がある。コミュニケーションを取り東宝と非常に親和性が高いと感じた。また、国際交流基金(JF)が現地で映画祭(日本映画祭)を開催する話があったので、映画祭と合わせて劇場公開し、大きなうねりとして展開することになった。」

角南氏も、海外で新海作品を公開することを意識していたという。

「2000年以降に映画の評判がインターネットに載り、『うちの国で公開しないんですか』というメールが来たりする。ファンとコミュニケーションを取りやすくなっている。また、新海監督は映画を作って終わりではなく、映画を届けて、ファンとコミュニケーションをとって、何が届いて何が届かなかったのか、ということを精査している。」

新海監督は、海外の人に自身の作品がどう届いたのかを直接見たいという。

なぜ世界配給にクランチロールを選んだのか?

世界的なヒットを記録した『すずめの戸締まり』だが、海外の配給会社はどのように選ばれたのだろうか。

竹田氏「『すずめの戸締まり』のリリースが2022年5月のカンヌ国際映画祭で出たが、そこにはクランチロールのほかにワイルドバンチ・インターナショナル(現グッドフェローズ)やソニー・ピクチャーズ、ユーロズームのロゴが入っていた。ソニー・ピクチャーズが持つ、メジャースタジオとしての全世界の配給網のパワーとともに、クランチロールが持つアニメファンに訴求していく力やノウハウをお借りした。また、様々な映画祭に強みを持っているワイルドバンチにもご協力いただき、新海誠監督という日本の才能を世界に届けることができた。」

「『君の名は。』のときはFunimation、『天気の子』では、GKIDSに北米配給をお願いした。前作でGKIDSを選んだのは、映画という文脈で新海監督を知らない人にリーチしたかったから。『君の名は。』をご担当いただいたFunimationの方は今もクランチロールにいらっしゃる。今回は複合的に色々な要素が整い、クランチロールにお願いすることになった」

なお、東宝がクランチロールとタッグを組んだのは同作が初めてではない。

竹田氏「東宝は『劇場版 呪術廻戦 0』でもクランチロールと共同した。同作はシリーズとして劇場公開をしたので、スクリーン数も非常に大きくなった。その流れを受けて、『すずめの戸締まり』を多くの劇場で公開できた。アメリカの皆さんが日本のアニメーションを受け入れてくれている感じがした。これからもっと規模を大きくしていきたい。」

配信が伸びる今、劇場公開はどうあるべきか?

昨今、劇場公開後に動画配信サービスで視聴されることを前提とした映画が増えている。角南氏は、映画作品はやはり映画館で上映したいと語る。

「映画館はどの国にもあるので、映画として見ていただくことを優先したい。一方で、映画としての上映が難しい地域は配信などで見ていただきたい。」

竹田氏も劇場上映を基本としながらも、それ以外の媒体でも観られるようにしたいという。

「新海監督が前作の時にも言っていたが、『すずめの戸締まり』は皆に映画館で見てもらうために一生懸命制作した。その感覚を大事にしながら、全世界の少しでも多くの映画館で上映し、映画館に来れなかった人のためにビデオやテレビ、配信で作品を届けたい。」

世界に認められた新海作品

三作目として集大成を迎えた『すずめの戸締まり』。海外でのヒットには、東宝やコミックス・ウェーブ・フィルムだけでなく、現地配給会社とのコラボレーションが大きく貢献した。ホップ・ステップ・ジャンプで歴史的ヒットを記録した今作。さらなる新海作品の世界的な飛躍が非常に楽しみである。

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