「恋する小惑星」から見るアニメ業界の広がり from アニメライター講座

ワクワーク

ライター:今更 論史

TVアニメ「恋する小惑星(アステロイド)」の最終回が放送された。いわゆるきらら系のマンガのアニメ化であり、ご多分に漏れずかわいい女の子たちが集まって何かするタイプのアニメである。この作品の場合、女の子たちがするのは地学部の活動だ。

地学というあまり馴染みのない題材であったが、彼女たちが夢に向き合う姿の描写が良いスパイスになっており、多くのきらら系とは一線を画した仕上がりになっていた。

このアニメの特筆すべき点は、関係者が「アニメそのもの」だけでなく「地学」についてコメントしている点である。一般的には、アニメが放送されると「ここは絵コンテの時点で泣けた」とか「ここの作画は特に頑張った」といったコメントが関係者から語られる。ところがこの作品は一味違う。

例えば6話の制作進行を務められた西村澪さんは学生時代に天文部に所属していたことを語っている。

また、アニメ本編とスペシャルミニアニメでいくつかの脚本を担当された坂井史世さんは大学生の時に地学を専攻されていたことを語っている。

プロデューサーの山下愼平さんが天文に造詣が深いのは、このマンガがアニメ化された経緯に関わるから当然とも言える。しかし制作進行や脚本家の方も、となると、実はアニメ業界には地学に思い入れがある人(地学ファンと言ってもいいだろう)が潜在的に多かったのではないか?

そもそも地学ファンは何人くらいいるのだろうか?

とても乱暴な推算だが、大学受験で地学の試験を受けた人の数を地学ファンの人数としよう。恋する小惑星の登場人物たちも受験するだろうセンター試験の地学の受験者数は、独立行政法人大学入試センターから公開されている。令和2年度のデータによると、地学基礎と地学の受験者を合わせると約5万人である。センター試験は浪人生も受験するため正確には分からないが、同世代の高校生のうち約5万人は地学ファンであると推測できる。

総務省統計局が公開している令和元年10月の日本の人口の統計によると、18歳の人口は約120万人である。したがって最近の高校生の24人に1人くらい地学ファンがいると推測される。

何度も言うがとても乱暴な推算なので、実際はもっと少ないだろうという指摘も最もである。

しかし、地学ファンの割合が少なかったとしても、アニメの関係者の数が多いのだ。恋する小惑星の場合は、原作者のQuroさんによると1000人以上がアニメに関わったという。

アニメ関係者が1000人いれば、地学ファンが24人に1人でも約40人、100人に1人だったとしても10人はいる計算になる。恋する小惑星のアニメの関係者に地学ファンがいるのは、全く不思議なことではなかった。

1つのアニメに関わる人はとても多く、何が題材であってもそれに思い入れのある人が自然と関係者の中に入っている。では、何故このアニメは特筆されたのだろうか?

それは、この作品の地学描写の細かさ、そしてその描写のための取材の綿密さゆえだ。協力としてクレジットされている組織は国立天文台のような国の機関、ビクセンのような地学関連産業のメーカーなど、枚挙に暇がない。

本来、アニメという映像作品はフィクション、すなわち自由な描写が許されることを強みとしている。対極にあるのがノンフィクション、ドキュメンタリーといったジャンルの映像作品だ。

この映像作品はアニメでありながら緻密な取材にコストを費やすことで、関係者の中にいた潜在的地学ファンが思わず語ってしまうような、そんな地学へのリスペクトに溢れる作品となったのだ。

影響は視聴者にも及び、このアニメの細かな地学描写を検証・解説した記事を書いてしまうかなり熱心なファンも見受けられる。綿密な取材にかけたコストは、熱心なファンの獲得に繋がっていた。

きっと、このような事例は地学だけにとどまらない。「アニメそのもの」以外のものへの思い入れを持つアニメ業界の人が、自分の「好き」を語れるようなアニメは今後も作られるはずだ。

アニメ業界には、人の数という広がりと、それに伴った「好き」の広がりがある。そこから生み出される作品には無限の可能性がある。――まるで、宇宙のように。

TVアニメ恋する小惑星の配信情報はコチラ!

http://koiastv.com/onair.html

<編集協力:浅井恵斗>

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