※本記事はワクワーク主催「アニメ業界ライティング講座」の修了生が取材・執筆しました。
「アニメ業界で働きたい!」という思いを持つ人は多い一方で、企画する人、作る人、伝える人、売る人などなど、アニメ業界での働き方も様々です。本企画ではアニメをお仕事にされている様々な方にインタビューを行い、お仕事の内容やどうやってそのお仕事に就かれたのか、どんなところにモチベーションを感じられているのかについて伺います。
第1回となる本記事では、IT業界から株式会社ブシロードムーブに転職され、現在宣伝プロデューサーとしてお仕事をされている古屋沢彌(ふるや・たくみ)さんにお話を伺いました。
ブシロードムーブという会社や宣伝プロデューサーという仕事に興味をお持ちの方はもちろん、他業種からアニメ業界への転職を検討されている方もぜひご一読ください。
執筆:山田涼矢
編集:ドキドーキ!編集部
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アニメ業界未経験からブシロードムーブの宣伝プロデューサーに!
――古屋さんは他業種からの転職でブシロードムーブさんに入社されたと伺っています。まずはその経緯について教えてください。
古屋:
新卒で入った会社を退職した後、アニメプロデューサーを目指してアニメ業界の会社の入社試験をいくつか受けていて、その中でブシロードとご縁がありました。入社後は1,2ヶ月程ブシロードの広報宣伝部で働き、ブシロードムーブに配属がきまりました。そこから現在のお仕事をしています。
――ご縁があった決め手は何だったのでしょうか?
古屋:
これが決め手になったのかは分かりませんが、最終面接で木谷高明社長(ブシロードの創業者、現・代表取締役社長)に「将来アニメに携わりたい」と自分の希望をはっきり伝えたことを覚えています。また、自分の側としては、かねてから愛好していたとある作品の製作にブシロードが関わっているということを転職活動の過程で知ったことで、それが強いモチベーションになりました。
――まさにご縁があったわけですね。先程、ブシロードさんの広報宣伝部からブシロードムーブさんに配属になったと仰いましたが、広報宣伝部と現在の宣伝プロデューサーの仕事は内容が違うのでしょうか?
古屋:
ブシロードでは中途採用されたばかりの社員が一時的に広報宣伝部に配属になる場合があって、自分は広報宣伝部にいた時は主に書類の整理などをしていました。
――どういった書類を処理されていたんですか?
古屋:
具体的には、弊社(ブシロード)が出資した作品に関わる分配金報告書がたまっていたので、それをシートに入力して整理する仕事でした。一見単純作業のように見えるのですが、自分は楽しく作業ができました。
――古屋さんはどうして作業を楽しく行うことができたのでしょうか?
古屋:
書類には作品で得た収益などビジネスに関わる数字が書かれており、プロデューサーを目指す自分にとっては興味の塊でした。実際にメディア展開した作品の、各部門の利益の良し悪しを実際の数字で見られたので、すごく楽しみながら作業に打ち込めました。
――ただの入力作業ではなく、古屋さんにとっては重要な情報だったわけですね。
新人アニメ宣伝マン、全てが初体験
――その後ブシロードムーブに配属となったということですが、その直後からアニメの宣伝に関わられているのでしょうか。
古屋:
はい。たまたまタイミングが合い、異動直後からアニメの宣伝に携わらせていただいております。
――アニメの宣伝といえば、TVCMやPV、駅や雑誌の広告などを想像するのですが、古屋さんはそういうことをご担当されているのでしょうか。
古屋:
それらの制作も宣伝業務に含まれています。加えて、キービジュアル、ホームページ、SNSアカウントの発注や運用、特集番組の企画や収録なども担当します。宣伝プロデューサーとしてそれらの制作スケジュールをまとめ、指揮をとり、情報公開を順次行います
――情報公開を指揮するにあたって宣伝の企画自体も任せて貰えるのでしょうか。
古屋:
基本的にはそうなのですが、作品や一部企画によっては製作委員会の幹事会社(アニメ化の主となる出資会社)や委員会全体で企画し、宣伝側は実行部隊となる場合もありますし、宣伝側で自由に企画を行うこともあります。いずれの場合でも、予算に収まるかや効果とリスクのバランスを取れるか、などの調査は自分たちで行います。
―—非常に幅広いお仕事をされているんですね。古屋さんは配属前からそれらの知識をお持ちだったんでしょうか?
古屋:
いいえ、アニメ宣伝に関する知識はほぼありませんでした。そこが入社して今までで一番大変なことでした。宣伝担当としてまず何から始めればいいか、どうやって作っていけばいいのかということ自体分からなかったため、ブシロードグループ社内のいろんなセクションの方に相談してノウハウや発注先など宣伝に必要な知識を学びました。また、転職前にお世話になったワクワークの中山さんにも相談させていただきました。
――古屋さんはワクワークの「アニメ業界就職セミナー」(旧名:アニメ業界長期インターンプログラム)の修了生なんですよね。
――ちなみに中山さんからはどういったアドバイスをしてもらったのですか?
古屋:
よく覚えているのは「まずは社内の別作品の宣伝企画書をベースに自分の担当作品用に書き起こしてみては?」と言っていただいたことです。宣伝企画書には宣伝担当がすべきことや頼れるお取引先などの情報が全部書かれているので、それを読むことで自分が何をすべきなのかが非常にクリアになりました。とても実践的なアドバイスで大変助かりました。
――専門知識が無いところからのスタートというのは驚きました。苦労されたこともあったのでは?
古屋:
そうですね、本当に分からないことばかりだったので……特によく覚えているのは、プレスリリースの文面を作成して社外の方に確認していただいた際に「キャストのバンテがテレコになっている」と指摘を受けたことです。お恥ずかしながら、その時はその言葉の意味自体が分からなかったんです。
――どういう意味だったんですか?
古屋:
「バンテ」は一番手二番手の番手、「テレコ」というのはあべこべになっているという意味です。要するに、キャスト一覧の並び順で主役(一番手)のはずの声優さんが一番上に表記されていない、ということを指摘されていたんです。すぐに社内で言葉の意味を教えて貰い、文面を訂正しました。今考えると当たり前のことなのですが、当時はかなり焦ったことを覚えています。
――それは焦りますね!
古屋:
他業種では聞きなれない業界用語を覚えるのももちろんですが、名前の並び順ひとつにも大きな意味があることを改めて学ばせていただきました。
映像制作から声優キャスティングまで!
――アニメのCMやPVなども宣伝の方が制作されるんですか?
古屋:
映像のイメージを文章でまとめてそれを元に発注先に作ってもらうこともあれば、既に素材がある場合は自分で素材を元にコンテを作成することもあります。また映像関連以外にも、Webサイトやキービジュアルの作成、TwitterやTikTokなどのSNSの公式アカウント運用、リツイートキャンペーンなども行います。最近は宣伝業務とは完全に別で、音響関連の仕事も行っています。
――宣伝と音響というのは一見関係が薄そうに思えますが、どういったお仕事をされているんでしょうか?
古屋:
具体的には、声優さんのキャスティングやオーディションの仕切り、マネージメント事務所との連絡などです。収録現場の立ち合いもしますが、実際の業務は専門の会社の方が担当されるので自分はまだまだサポートの役割ですね。
――宣伝担当が音響関連の業務も担うのは一般的なことなのでしょうか。
古屋:
基本的にはないと思います。たとえばアニメの放送前特番など、宣伝の一環として声優さんに動いてもらうこともありますので、そういう場合はアニメ宣伝としてマネージャーさんにご依頼しますが、音響業務とは別ですね。ただこれは弊社特有の背景なのですが、グループ内に響(HiBiKi)という声優プロダクションを持っていて、音響業務をやっていると会社としては声優さんのキャスティングを受ける側だけでなく、キャスティングをする側になることもあるんです。ですので私自身もなるべく音響の現場に立ち会い、多くの声優事務所の方と接点を持つようにして、キャスティングをする側の立場としても受ける側の立場としても役に立てるように心がけています。突っ込んだ言い方すると、多くの現場でできた事務所とのつながりを活かして、声優さんの宣伝稼働で融通を利かせてもらいたいという狙いもあります(笑)。
――すごく幅の広いお仕事をされているんですね。これまで宣伝プロデューサーとしてアニメ作品に関わってきて、特によかったと思うことは何でしょうか?
古屋:
宣伝の仕事の面白いところは、アニメ企画の早い段階から放送後まで作品とその企画に深く関われる点です。プロデューサーを目標としている自分にとって、アニメ制作スタジオやテレビ局、商品化担当企業、音楽レーベルなど様々な会社と関わり、作品を宣伝できることが本当に貴重だと感じています。
「どうしてもアニメが作りたい!」思いが高まって転職へ
――ところで、古屋さんは別の業界からブシロードムーブさんに転職されたわけですが、どういう意図でそのようなキャリアを辿られたのですか?
古屋:
一度業界外の知識を蓄えてアニメ業界とは別の視点を持つことで、それが自分の武器になると考えたからです。ただ、実際大学生として就職活動をしている時はアニメ業界にそれほどこだわっていたわけではなく、ミーハー心で「六本木のIT企業に勤めるのもいいな」などと思って就職活動をしていて、実際そのような企業に内定をいただきました。
――その後、アニメ業界に興味関心が向かったのはどうしてですか?
古屋:
大学4年生の春に就職活動を終えて、残りの大学生活をどう過ごそう? と思った時に、ふと『WHITE ALBUM2』という作品が大好きだったことを思い出し、「せっかくだからこの『好き』という気持ちをとことん突き詰めてみよう」と思ったんです。
――具体的にはどんなことをされたんですか?
古屋:
まずはネット上でその作品を好きなファンの方を探しました。そこで、何年も前の作品なのにもかかわらず作品を愛し続けている人が沢山いることを知りました。そこからネット上でつながって仲良くなって、その輪を広げて、オフ会を主催して……最初は数人の集まりから始まって、最終的には数十人規模のオフ会も主催しました。結局大学在学中に30回くらいオフ会を主催したと思います。また、その延長で同人誌を作ってコミケで頒布したり、海外の聖地を訪れてみたり…そうしていくうちに「やっぱり自分はこの作品が好きだし、この道に進むべきなのでは」と思うようになったんです。
――内定先の企業で勤めだしてからもその気持ちは変わらなったのでしょうか。
古屋:
そうです。実際に違う業界で働いてみて「やっぱりアニメ業界で働きたい」という気持ちが明らかに強くなり、上司に退職することを伝え、アニメプロデューサーになるために生きようと決めました。
――すごい決断力ですね。反対はされませんでしたか?
古屋:
はい、前職でもいつかアニメに携わりたいということは言っていたので、「急すぎる」とは言われましたが「遂にその時が来たんだな」と言って送り出してくれました。前職の業務で培ったWeb広告作成やクリック率を向上させるためのスキルなどは今の仕事にも非常に役立っていますし、それも含めてありがたかったなと思います。
――前職の経験も無駄にはなっていないんですね。では、改めて古屋さんのこれからの目標を教えてください。
古屋:
まずは担当作品がもっと広がっていくよう宣伝をがんばりながら、アニメプロデューサーを目指していきたいと思います!
アニメ業界との様々な関わりかた
――では最後に、この記事を読んでいる、アニメ業界に飛び込もうとしている人に向けてのアドバイスをいただこうと思います。まずはアニメ業界を志す学生のみなさんへのアドバイスをお願いします。
古屋:
学生の方は、時間がある内に自分が譲れないものを見つけられるといいと思います。それが見つかればやりたいことも見えますし、その道を簡単には諦めなくなるはずです。そのためにも、自分が少しでも興味を持ったことにはまず手をつけ、その時の自分の本音を観察してみるといいのではないかと思います。
――ありがとうございます。続いて、古屋さんと同じく他業種からアニメ業界への転職を考えている方へのメッセージもお願いします。
古屋:
私は「これ以上今の仕事をしていたら夢が叶わない」と思い、感情が爆発して転職を決めました。なんとなくではなく自分が本当は何をしたいのかを分析し、その情熱があふれそうになったなら、次の道へ踏み出すべきだと思います。そう思う一方で、今は「アニメ業界でなくともアニメに関われる」とも思っています。
――それはどういうことでしょうか?
古屋:
現在、アニメと他業種とのコラボは当たり前に行われるようになっています。アニメが好きでコラボを実現してくださる方がアニメ業界の外にいらっしゃることはアニメ業界側にとっては心強いですし、今のお仕事を続けながらアニメに関わることができるケースも多いと思います。ですので、転職だけでなく色々なアイデアを持って外から関わるというということもぜひ考えてみていただけたらと思います。
—―貴重なお話、ありがとうございました。古屋さんのこれからのご活躍、応援しています!
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